皆さん今晩は、昨晩のふたご座流星群は観察されましたか?私は田んぼの畦道で30分ばかり空を見上げて、大きく流れたのを二個、小さいのを二個見られました。ろくな事のない社会状況ですが、星に願ってなんか一つくらい良い事起きると言いですね…

さて、10日ぶりですかね?コチラ。漸くここに顔出す時間を持てました。でんき堂的にはこの間、お休みの日を除いてひたすらケーブル作成に明け暮れた10日間で、勿論オーディオ機材の接客や販売もしていましたが、それ以外の時間はとにかく手先と多少の知恵と技術を使っての作成作業に没頭する毎日でした。
今日はその色んな作成の中でも特に手間の掛かった一例の紹介です、自分でやって見ようという方にも参考になるかもですよ。

 

 

はい、こちら。
Zonotone 7NSP-Neo Grandio 07Hiと言うスピーカーケーブルで、基本はメーカー完成版のバナナかY端子組んだものが2mPairで95,700円とまぁ、スピーカーケーブルとしては超高級ケーブルの範疇ですよね、これはもう。それとは別にこちらの製品には切り売りも用意されていまして、1m辺りで税込み9,900円もするケーブルですが、それを用いて好みのプラグと仕上げが自己努力で得られるという意味では、メーカー完成版よりは金額的には安くあがる筈です。
では果たしてそれが実際にはどれくらいの作業なのか、参考までにこれから挑戦される予定の皆様にお見せしたいと思います。

 

 

これがまず作業に入る段階での剥き作業です。初めての方にはいきなり難易度が高い作業です。青黒の織り込み布巻を切りはいでいきます。この時相当切れ味良い刃を当てないと、切り口ベロベロのケバケバになって惨めな仕上がりになります。セロテープでも巻いてさばけない様に作業するのが良いでしょう。次に外皮のビニール被覆を、内側の線には切り込まない様に注意して切り目を入れて抜き取ります。今度は切れ味が良すぎる刃物では、慣れない方には中の線ごと切り込む恐れがあるので要注意です。要するに一つのケーブルを捌くのに相反する能力の道具なり技術が必要です。尚、私は見栄えと使い勝手も重視なので、このクラスの径の線の場合は先端から15cm程の地点で切り目を入れています。

 

 

剥き終えた端末は当店は基本的に伸縮チューブを掛けて締め上げます。各種径に則した手持ちが用意出来る限りは、基本的にRchに赤色、Lchに白、或いは黒色のチューブと、接続時に見分け易い様に使い分けて被せています。それから伸縮チューブはヒートガン(今更ライターで焙るとかナシですよ)を用いて熱収縮させる訳ですが、直に熱風を浴びせるとナイロン系素材やビニール系被覆は容易に溶けてただれます。熱を当てたいところ以外には、予め養生を施して作業に臨むことも必要です。
今回の依頼には中村製作所のアモルメットコアの装着も含まれていますので予め通しておきます。何しろプラグ装着後には通せませんので…

 

 

お次は中の線の先端剥きです。お店の場合はQED AIRLOC処理に必要なだけ剥きますが、皆様は20㎜くらい剥いておくと作業が楽でしょう。その際こちらのケーブルの場合アルミ箔の層に行き当たりますが、コチラも丁寧に取り除いてください。

 

 

剥くと5種7本の線材が現れます。銅単線の一本を除いての残り6本には細かな撚線がそれぞれ被覆に覆われています。当然このままでは通電しないので一本ずつワイヤーストリッパーで剥いていきます。カッターナイフで云々出来ると思っている方は、奇麗に仕上げたい限りは、このクラスを迂闊に触るのはおやめになった方が良いかもしれませんネ。また、適切なサイズのストリッパーを当て、一回の工程で一気に剥こうとせずに各線当たり2、3回に分けて剥いていかないと、線材に負荷がかかって容易に千切れてしまいます。つまり6本処理につき12~18回の作業で、写真の左が剥く前、右側は剥き終えて各線をそれぞれ撚って選り分けた姿です。

 

 

さて、ここまでで相当な時間と技術を要したと思います。具体的に言うと外皮の剥き作業が両端左右分で四回、中の線(赤、黒)をプラスマイナスで全八回、このケーブルだと更にその中の線の被覆を片側方単に一線につき6回ですから、全48回の総計60回。
その上で漸く8端末揃って一般的には上記の様なプラグを被せてイモ螺子留めします。大方のプラグ、世の中の8~9割は多少の形状の差こそあれ、バナナ、Y型問わずこの様な内部構造で螺子留め型です。

 

 

プラグ挿入側から内側を覗いた姿です。手挟んだケーブルを螺子留めする仕組みなのが見て取れますね。

 

 

写真映りと見易さの関係で違うケーブルを挟んだ姿でご容赦願いますが、イメージはこうなります。撚線をよじってプラグ内部に挿入して螺子で締めるってこう言う事です。
何十本と揃う撚線に対してこの留め方は果たしてベストでしょうか?強く締めたつもりでも実際に均等な力で締めあがる線材は全体の半分に満たない可能性さえあります。プラグ筒に垂直に立つ螺子が締め付けられるのはその先端に触れた部分のみですね、それ以外は全て押し上げられ脇に逃げ隙間を求めて縮れるかただ並んで触れている状態になります。今回のZonotoneの様な5種7本の線材の総合線材数は数百本になるでしょうが、伝送時はそれぞれの特性を保持した独立伝送が理想であっても、プラグ接触時には全てが均一の圧力でもって均等に接触するのが本来の目的であり理想だと思われます。
勿論このままプラグ内螺子締め直留めでもある一定の加減でもっての保持は叶うでしょうが、正直言って強い力で引けば抜けます。そんな事態々しなくていいのですが、つまりその程度の力加減で電気的接触ポイントが留まっていると言う事です。
ここまで相当の努力で切った剥いたで漸く整えた端末なのに、せっかくいい値段払って買った高級プラグにその程度の留め具合では勿体ない気がしませんか?

本来は、これらのプラグには撚線に対してリングスリーブを被せて圧着するか、或いは半田処理した上でのプラグ装着螺子留めが基本だった筈なのですが、いつの間にかメーカー完成品でさえ撚線直挿入螺子留めが普遍的に行われるようになった理由は、正直私にも分かりません。敢えて言えば、一部の極端な主義主張の勢力によってピュアオーディオの『ピュア』の部分を恣意的に解釈しすぎて、パッケージ状態のソフトを神聖視しすぎたかの様にその音を録音時のままにダイレクトに再生する事が目標と化し、アンプからトーンコントロールを追い出し奪い去り、本来はそれを聴く部屋での心地よさを追求すべく所を、再生環境との融和を無視したかのようなヘンテコなバランスで音楽を苦難辛苦しながら聴く事が尊ばれるようになった『原音再生』等の、よくよく考えれば不思議な言葉が生まれた辺りから、半田やスリーブ処理が忌諱されだし、半田もプラグもトーンコントロールも全て音を濁らす不順な要因だと言われ始めたようにも思いますが、私自身はその是非を論じる立場でもなく、また気持ちもありません。
私自身も今より遥かに若かりし頃は、完全にその思想に染まった時期が確かにあり、CDプレーヤーから取り出したデジタルアッテネーターで大きさを調整した信号をパワーアンプに直結して、高いことは高いけど剝いたままのろくな端末処理も施されていないスピーカーケーブルを満足に角度の調整も出来ていないスピーカーに直結して大きな音を出して
『これこそHi-Fiだ』
と信じて疑わないでいた、今にして思えば愚かで無知だった時期を今は恥ずかしく思い出すだけです。そして今、趣味のオーディオではありますが販売に携わる立場になり数十年を経て、オーディオを始めた10代中頃の当時よりは多少は経験も知見も広まった今改めて思うのは、機材が何であれソフトがどうであれ、適切で安全な接続と、再生環境に寄り添った設置、設定と音場コントロールだと言う事ですね。

 

 

さて、こちらが当店が普段よりケーブル端末処理時にお勧めしている、英国QED AIRLOC処理の、圧着後のプラグを切断した内部断面です。顕微鏡で30倍拡大の物を接眼レンズ越しにスマホで撮影した姿です。ただの金属断面に見えるかもしれませんが、金色の四角い周りの中の僅かに色違いの四角い中心部分が、なんと元撚線の集合体の圧縮された姿です。プラグ内に線材を挿入後に専用のプレス機でもって全周囲から強力な加圧で、プラグと線材が完全に一体化した姿です。英国人共はこれを冷間溶接と呼称するようですね、確かに言い得て妙、その通りだと思います。私も初めてこの断面を実際に目にした時は大層驚かされました。外から見る限りなかなか強固に噛んでるナぐらいの印象だったのですが、内部で線材が完全に溶着してるとは流石に思ってもみませんでした。あるいは一種の鍛造に近いかもしれませんね。

 

 

ここからはでんき堂を含めて全国で3店舗程度と言われるQED AIRLOC処理なので、お客様自身の作業は残念ながら叶いません。頑張って奇麗に剥いたけど、やっぱりAIRLOC希望ってなったら作業途中でもいいので当店まで相談くださいね。

 

 

無事作業終了の図です。今回はお客様の要望に従い、アンプ側はバナナプラグ、スピーカー側はYラグでかつアモルメットコア通しとなりました。プラグ外観自体は本来ABS樹脂仕様なのですが、今回は伸縮チューブを全体に亘って被せた高級見栄え仕様のオプションを追加してあります。せっかくの高価で高性能を標榜するケーブルですので、仕上がりもこれくらいは最低限保持したいと願っていますが、皆様の目にはいかがお映りでしょうか?

さて、長い作業と蘊蓄垂れつつ最後には、文頭で自分でやって見る方の参考にと書き出しながら結局個人では処理出来ないAIRLOC処理に行き着いてしまい大変申し訳ございませんでした。要するにスピーカーケーブルって趣味の道具は、自分で剥いて作って当然と言う雰囲気や風潮に臆している方々に、やるなら徹底してやって下さい、中途半端な仕上げにするくらいならプロに任せちゃって下さいとお伝えしたかったのですね。
例えば、皆さん多くの方が自動車にお乗りですよね?中には結構いい車にお乗りの方もおられますよね?
『そんな立派な車乗っててオイル交換とかタイヤの交換とか電装系自分でしないんだ、ふーん』
って言う自動車屋なんか存在しませんよね?私はたまたまそれが好きだから自分でやっちゃいますが、基本的にはプロに任せれば良い領域です。オーディオを扱う側や一部マニアの間にたまに見掛ける姿勢の、趣味だからカートリッジ交換や端末処理ぐらい自分でやって当然的な論を吐いて、それを苦手とする方々を委縮させる風潮や帰来をしばしば見かけたり耳にしますが、私はそういう傾向が大嫌いです。自分でやりたい方、楽しみたい方、腕に覚えがある方はどんどん自分でやればいいだけの事で、オーディオが趣味とか少々良い機材で音楽を聴きたいからって、ある程度の技量や経験が必要なこれらの処理を皆が皆自分でしなきゃイケないんなんて露ほども思っていません。どんどん面倒は頼れるお店に仕事を振ってください、勿論それに見合った対価は発生する筈ですが、相手がプロである限りは必ず見合った仕事をしてくれる筈です。
一番の問題は、これら本来結構な技量や経験を必要とするものを、そのサポートが一切出来ない、或いはする気もないにも関わらず、ただ無定見に高価な線材やプラグをカートリッジを大量に、ついでに言えばメーカーから彼ら超大型規模の取引先への人身供養としてのヘルパーも並べて売り散らかす超大型家電カメラ量販のオーディオコーナーのその姿勢であり、その彼らの規模と資本力故に、技量のあるサービスが行き届いた小規模なオーディオ専門店が粗方全国から急速に淘汰されてしまって、その技術の恩恵に一般の方々が浴する機会を半強制的に失いつつある事でしょうね…

でんき堂のこれらの作業が他に比べて絶対だとは申しませんが、皆様のお住いの近隣に求めるサービスが見当たらず、当店がお役に立てそうな際には遠慮なく距離に関わらずご相談下さいませ。因みにここ数日に限っても、各種ケーブルやカートリッジなどの技術的作業の依頼主の皆様のお住まいの地域は、当店のある神奈川県以外では、北海道に群馬に埼玉に千葉、東京。静岡に大阪に福岡にと、実に広範囲に及んでいました。皆様方それぞれに対して、ご来店頂かぬともほぼお求めになられたサービスにはお応え出きたとは自負しておりますが、その仕上がりは如何でしたでしょうか?

 

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