皆さん今晩は、グダグダしているうちに五月も終りかけ早目の台風もやって来てと書き出したのですが、そのまま力尽きて6月になっちゃいました、その続きです、要するにまぁ何が何だかの様相です。店主は最近相変わらずの頂いた仕事量に対しての、己の技量はともあれ段取りや手際の悪さに悶絶しながら雑誌への原稿依頼も度々あったりして、どうにも手が空きません。勿論ココを片手間で書いてんじゃないのですが、何事にも優先順位ってもんが有る訳でして、毎日の会社とか店舗の運営って基礎の部分を分けて考えれば、まず第一義は依頼を下さったお客様への製作物加工作業の納品ですね、その次に締め切り期限の決まっている原稿、で、ココの順でしょうか。本当は書きたい事、ココを通してお伝えしたい事は数多とあるのですが、ケーブル作成だの加工だのアレコレの作業や原稿の締め切りすっぽかして迄は流石に難しいのです。更に言えば原稿の方はコチラに普段書いている調子で書く訳にもいかず、余計な事書いての舌禍を避けて『またあいつか…』等と言われての無用な波風を立てぬ為にも、全てのオーディオ製品、即ちそれに携わる高貴で全能な面構えの、失礼、高いプライドを自負するブランドを敵に回しかねない言質を避け穏便な言い回しを求めての執筆は、私の能力では無闇と時間を要すので、尚更コチラに割ける時間が奪われる始末、なんてまぁ既に十分不穏当な事書いて居る様な気がして来たので言い訳はお終い。

閑話休題、世はアナログブームと聞きます。米国のどっかの女性歌手の新作アルバムの数百万枚の出荷枚数の半分近くがレコード盤で、その次にダウンロード、CDの順と続くなんて記事を目にしたりして驚いたばかりなのですが、ソフトはともあれそのレコード盤から良い音を取り出すと言うか掬い上げるのがレコードプレーヤーな訳でして、更にその手前にピックアップとしての針があってアームが有る訳です。で、カートリッジ、針の類は未だに何とか良い物も各社常識の値段の範疇でも揃えられるのですが、問題はアームです。はっきり言ってしまえば1960年代から80年代に手に入れられたまともな性能のアームを、21世紀も20年以上経た今同レベルで購おうとすればとんでもない価格になっている事実を思い知らされ、そもそも選択肢なんてものが丸で無い事を痛感させられます。故に1980年代初頭のSAEC WE-308SXなんて名機を所有している方は絶対それを手放す訳にはいかなくなるのですね。
今回のお仕事はそんな優れたアームを有す方からの『アームの高さ調整が出来なくなっちゃったよ、どうにかしてよ』の一本の電話。SAECの308系列なら私も馴染みのアームなので『とにかく見ますよ送って下さいな』と、どうせ難しければ専門業者さんに泣きつけばいいやくらいの気軽さで引き受け届いた物を目にしたら・・・

『おいっ、なんだよコレ?駄目じゃん!』ってその損耗箇所に衝撃を受けてギャフンとなってつい叫んじゃいました。

 

 

写真に残しましたが、上記はSAEC WE-308SXのアームの根元部即ちアームベース部分ですね。シングルポイント式の調整螺子は二点留めイモネジ式を採用する他社に比べ太めのM4を採用し力を掛け易く、突出した摘みを回せば済む操作性は針交換時のアームの適切な高さ調整が行い易いのですが、故に過大な力も掛かり易い訳ですね。左手のアームベースバンドへ下に映る摘みネジを回し、上に映るベースへ填めた上でその脇の小さな穴を介して締め上げアーム支軸の高さ調整を行います。今回その螺子舐めちゃいました、どうもうまく締まってない様に感じたお客さんがドライバーでかなり力掛けた様子です。気持ちは判りますがね、駄目でしょそれ。しかも今回舐めたのは摘まみ側じゃなくてベース側の雌螺子側、ゲゲゲだしガチョ~ン(©谷啓)でアジャパ~(©伴淳)でタメゴロ~(©ハナ肇)ですよ全く。
こういう事態は経験ない訳じゃないけど、ここは精密で失敗出来ない箇所なんだよね、ベース部は代替が効かないから、本来は人様のはあんまり弄りたくないんだけど仕方がない、何しろ今更このアームの代わりを誂えようなんて考えたらお金が幾らあっても足りないし、そもそもお客さんのプレーヤーキャビネットはこのアーム用に組んであるので今更新規の違う規格のアームにコンバートなんて、ベースボードは作成し直しだし穴位置は変更だし、考えただけでも大騒ぎでとてもじゃない。しかしお客様は悲しんでいらっしゃるし『駄目元でも構わんからやってくれ』と申されるので作業開始です。
修復作業自体はバイクとか車周りで舐めちゃった螺子穴補修する技術にあるコイルインサートって方法なんですが、自動車関係のそれらと違ってアームは力の掛け具合が違う繊細さなんですよね。
作業自体は舐めてズボズボになた元4φの螺子穴を道具で拡張して、そこにタッピングして螺子溝を切り、更にココにリコイル部品を挿入し元の4φの螺子穴の復元完了です。最後に元の螺子をそっと回して挿入してみて『おぉ、入った!』

まぁ今回はたまた上手く治って結果が良かったので紹介しましたが、皆様もアームの扱いにはくれぐれも丁寧に扱って下さいな、特に1980年代初頭迄のアーム、SAECとかFRとかSMEとかですね、当時は高くても5~10万程度でしたが、今更同等性能維持したお品を新規に求めれば30万50万100万円ってあっと言う間ですよ。それにリコイルと言っても、今回のM4より小さなネジ径、それこそ他のアームで見掛けるM2とかの螺子径はリコイルは無理じゃないのかなぁ…

今回と同じ案件で困っている方で、駄目元でも構わないお気持ちの方はご相談くださいませ

 

話す内容とセンスが一々古いのが気にならなければ→0466-20-5223