皆様今晩は

今度は誰だ、伊勢谷?私は良く知らない俳優ですが、次から次へとこの手の話題はネタにつきませんねぇ、まったく。
ボブ・ディランの様な人間がキラキラしてた時代じゃあるまいし、グラスキメて世の中に何かメッセージ投げる訳でもあるまい、つまらん葉っぱで人生棒に振る様な真似だけはしちゃなりませんねぇ・・・

さて、お仕事

今から60年も時を遡った古の、TV本放送開始からもまだ日の浅かりし頃の当時のNHK技術陣と三菱が共同で開発した名機、2S-305の再整備を承りました。まずはお客様宅に出向き、このスピーカーBOXを背板から開けて、ウーハーユニットのPW-125を取り出して持ち帰ります。流石現場での使用を前提に設計されているNHKモニターだけあって、こういった作業を大変行い易く作られているなと感心する次第です。

 

 

お客様宅で40年は働いてきたこのユニットは流石に傷んでいます、二本まとめて山形へ送ります。今回はエッジ交換や再着磁、ボイスコイルも見て貰おうかな・・・

資料を紐解けばこの2S-305は1958年に発売が始まったそうで、依頼30年に亘って市場での現役を保ったと言う長寿命モデル、三菱の面目躍如、流石NHKモニターって感じのスピーカーです。
ただ残念な事に、その製品としての終焉期にオーディオを覚えた私は、当時の彼らのカタログ上に綺羅星の様なスペックとハイテク素材で塗り固められたDIATONEのロゴも誇らしげに輝く大型マルチウェイ機が山盛り並ぶその片隅に、この古ぼけた時代遅れの姿をしたスピーカーが載っている事実と必然がどうにも理解できず、おまけに古臭いにも関わらず結構なその価格にも反感を覚えたりしていて、このスピーカーの良さを理解するには当時の私は余りに若く愚かで無知であり、ハイテクとスペックを信奉し一過性的見栄えに目を奪われたガキその物の偏重した思考であり、オーディオ製品に対する感覚も極めて幼かったなぁとつくづく思うのです。
どっち道当時の私には無理ですが、当時もしこの2S-305を買えるだけのお金を自由に握っていたとして、『DIATONEのスピーカーから何でもいいから一組選びなさい』って言われたら、絶対この2S-305だけは買わなかった自信だけはありますね。当時の私はDS-2000の様な分かりやすい3WAY機に目を奪われていました、その本質自体は何も分からずに。結局はその下のDS1000も700さえもどちらも買えませんでしたが、もしそれらを当時買ったとします。
で、幾歳経って2020年、今回お客様の依頼された2S-305は見事に修理修繕され再びお客様宅で素敵な音を奏でています。DS-2000やDS-1000はまず治りません、直せません、端からその積りで作ってさえいません。でも2S-305は治ります。三菱がそのオーディオ事業部の歴史中で売りだした殆ど全てのスピーカーのほぼ再初期に発売されながらも、全三菱スピーカー中どのモデルより今後も長く生き残る事は間違いありません、恐らく地表に存在する三菱の全てのスピーカーがその役目を全うし終える日が来るとして、最後まで音を出し続けるのは間違いなくこの2S-305でしょう、それくらい堅牢にして強固、かつシンプルな良い作りです。
確かに製作者たる三菱は企業規模に応じたその責任を、或いはその企業規模の特権故なのか、ともかく自社の売って来たスピーカーを発売後10年も経てば修理をする気は全くないのですが、この2S-305に限っては、当時のNHKが提示した設計要件の良さと同時期の三菱製作陣の良心と志の高さが、60年経ったこのスピーカーを未だ修理可能な物として地上に存在させてくれている訳です。勿論修理を担当するのは三菱とは比べようもない小規模な小規模な山形県鶴岡に存在する企業で、恐らくスピーカーユニットの修繕では日本一と呼んでも差し支えない技量を誇る技術集団のレリックさんです。

 

 

さて、1カ月ちょっとの時間を経てユニットが山形から返ってきました。これが修理上がった取り付け前の姿です、全く見事なもんですね。箱に取り付けてしまうとこのNHKモニターはサランネットがほぼ固定ですので、再び取り外す日が来るまで直にユニットは拝めなくなるので、お客様と一緒にそのお姿の観賞会です。

 

 

はい、完成。前回ここに書いた専用のプラグを介して新規に組み上げたスピーカーケーブルを接続して音を出してお終い。
お客様の青春の思い出が再び当時の音を奏で感慨にふける姿を横目に、私はこのスピーカーの良さを理解出来なかった当時の自分の未熟さを想うのです。
いい製品とは、その場限りの性能やカタログに飾られた数値等では無く、どんなに時間が経とうと、こうやって人間が手を入れれば再び息を吹き返す物の事ではないかと、今ではそう思います。勿論その価値観が正義だと皆さんに押し付ける気等は毛頭御座いません。
ただ現実にこうして、このスピーカーをお客様が購った当時の他のほぼ全ての同質の製品が修理不能でゴミと化す中、少なくとこの2S-305はこうして再び、元の持ち主の手元で活躍の機会を再び得られたと言う事実があるだけです、以上。

 

今回はユニット二本のオーバーホール代金に輸送コスト、お客様宅への出張回収、再装着等の整備費を含め12万円程度のご請求となりました。
1950年代の設計で1984年当時にはペア70万円した古参スピーカーを、2020年のデジタル万能で製品寿命や企業責任が凡そ10年にも満たない現代に、その金額使ってまで古い物を丁寧に大切に使い続ける事の是非は、皆様の価値観で御判断下さいませ→0466-20-5223