今日のお仕事は、1970年代後半のコロンビア時代のデンオンが市場に送り出した、当時のちょっとした高級ターンテーブル、DP6700へのアームの植え替え作業です。
水晶発振器精度のサーボ制御機構を搭載した、当時の同社が放送局グレード用に作ったタンテーブルを源流に持つDP6000に、同じく自社のダイナミックダンピング型のDA-307をあてがい、やはり自前で用意したキャビネットに組んで完成品として誂えられた製品です。アナログプレーヤーとは本来モーターとアーム、キャビネットの三点構成で成る組み合わせなので、当時はこういったメーカー自前でのセット品も数多く用意されていたのですネ。例えば現在のデノンのDP1300はバラバラでは購入出来ない完成品ですが、このDP6700は三点全てが個別の商品であって、組み合わせも自由と言う事です。つまりこのDP6000モーターに他社の、例えばSAECのWE-308Nのアームを用意して好きなキャビネットに孔開けてプレーヤーを一台作れたと、まぁ簡単に言ってしまえば創意と工夫の有った良い時代と言う事です。
40年近く経ったとは言え基本の良い作りの良さも相俟って、未だに中古市場ではキチンとした値段で取引されている様子ですが、今回のタマはオークションの取引に於いてあまり芳しくない状態だったご様子のお品。そちらを不幸にして手にされたお客様の希望で、現物を当店に送って貰って各部チェックした所、アームに修復不能に近い損傷を発見。モーターの回転やキャビネットの仕上がりには現代の機材では及ばない部分も多々見受けられるので、ここは一つアームの移植をして蘇らせましょかと言う流れに。ただ困った事に、このプレーヤーに当初から採用されているDA-307は有効長が230mmと言う、現在新品で単独入手できるアームの中ではあまり採用事例の無い長さ。さて困ったとカタログ見渡していると、ベルドリームが販売するJELICOのSA-750Eが240mmのセミロングを採用していて、使い易く良いアームである事は、以前から色々なプレーヤーにこちらを植え付けてる私としては馴染みでもあるし使い易いもの。キャビネットに対しても大改造にはならずに綺麗に付けられそうだなとあたりが付いたので、その旨お客様と話し合って了承得てイザ作業開始、以下がその作業内容です。
まぁこのアーム自体はどこの大型家電カメラ量販でも普通に販売してるので、勿論そちらでこれの販売に携わってる店員方々には、余裕のよっちゃんお茶の子さいさいの作業でしょうから何の感銘も受けないでしょうが、既存のプレーヤーにアーム付け直して楽しめるんだって所に新鮮さを覚えた方は是非ご覧下さいませ。

 

 

元のアームのDA-307のチェックです、接合部キテます

 

 

軸受外れていてイモネジも損壊してました、錆びたのかな?
壊れて無ければ個性的で良いアームなんですがね。私も使っていました。

 

 

元のアームを外します。上の箱は新規のアームです。

 

 

アームには大概こういった取付指示書が添付されています。これさえ確認出来れば私でもアームを取り付けられます。

 

 

新規のアームのベースを取り出して取付位置を借り決め、この時点では簡易ゲージで問題なしです。

 

 

取付可能な事を確認してからテープを貼ってより正確な測定の出来るゲージで位置出し。このゲージとっても高いんだよねぇ・・・、独逸製

 

 

今回は240mm

 

テープ越しに透けて見えている丸穴の小さい方が今までのアームの穴、外周円はその台座跡。240mm地点にマーキング、前回のアームより10mm外側に出た形ですね。

 

 

新規のアームベースの台座が潜り込む30πの円周をケガく。要するに新たに穴開けする場所。

 

 

軽い力で徐々に作業。

 

 

ざぐり分削って更にケーブル導通分に必要な径をケガく。上の穴は元穴。

 

 

穴開けして更に細かくヤスリで調整して行きます

 

 

必要分は開きました

 

 

台座をはめてズレが無いか確認

 

 

アーム本体も挿入

 

 

更にズレの確認、一発で決まりました

 

 

一旦アームを抜き、台座の固定。木ネジ留めで下穴も先にネジ径より細く開けておきます。

 

 

アームを再度挿しこむ

 

 

もう一度確認、間違いなし

 

 

キャビネット裏側。新設アームのDIN5ピンが覗いています。写真を見た当店のスタッフがいやらしい眺めですネと呟いていましたが、彼は変態なのでしょうか。
閑話休題、元のアームの穴が大き目に、つまり下から大径ナットで上部台座と共締めする構造だった故に大きく削り取ってあったので、今回は作業が比較的小規模で済みました。今回のアームは取付方法はオルトフォン型で、台座を上からのネジ留め構造。例えばSAECやFRアームなどは共締め構造なので、導入抗をナット以上に相当大きく掘削する必要があるのでこうは簡単にいきません。因みにSMEの場合はサヨウナラレベルで大変です。

 

 

今回用意したSA750Eはアームケーブルは別売なので、いづれ良い物をお客様にはお求め戴くとして、取り敢えず当初のアームケーブルを再利用しようと思ったらアレ、断線してるよ左側。音が途切れる。
この手のケーブルの断線は十中八九この部分、ドライバーで指し示している部分ですネ、ここが逝ってます。十数年前の昔私が居た秋葉原のオーディオ専門の老舗の、そこの三階のアクセサリー担当者が、この部分断線しているケーブル、外して直せばいいのにそういった想像力に乏しかったのか

「不良だ、不良」

と言ってバシバシ捨てていたのが懐かしいですネ。
ゴミ箱当番だった私はそんな勿体ない物を見ては胸を痛め、一応ゴミとは言え会社の物なので

「ゴミ箱のケーブル貰って良いすかぁ~?」

と一応店長の許可得ては持ち帰ってちょいちょいと直して使いました。MITとか(笑)
流石に新品のオルトフォンの針が何個も箱のまま捨ててあった時は、店長も馬鹿野郎と三階に怒鳴りこんで私の手には入りませんでしたが。
意味が分かりませんか?お店に注文のアクセサリー類がメーカーから段ボール箱にミックスで色々な商品が梱包されて入荷しますよね、宅急便とかで。それらは各フロア発注分まとめて入荷して来て、複数が一箱に納められ発泡材とかの緩衝材で他の品は隠れている訳ですが、この件の担当者は自分が発注した物が段ボール開けた最初に目につくと、ソバの二段盛り食べた経験がないのか、下は確かめずに自分の品だけ取り出して残りは全部ポイしてたんですよね。道理で在庫が狂ったり入って来て無いと揉める事の多い店だなと思ったら・・・

 

 

閑話休題、既存端子をバッサリ切り落とします。

 

 

同軸ケーブル構造なので先端孔空きの今一番私の中では愛用している、米国スイッチクラフトのオールドタイプのプラグに左右とも換装です。左側ですネ、カッコいいでしょ?聴いてみると音も元の端子とは全然変わりますよ。

 

 

そんでもって台座からケーブル導き出してアームに接続です。しっかり挿し込まないと簡単に音が出なくなってしまう場所です。

 

 

アームを挿し込み直して仮締めして座り具合を確かめます。仮音出し用の針を付けてアームの高さ調整を行います。

 

 

試聴、おぉ。

非常に満足のいく仕上がりと音。自信を持ってお返し出来ますね、これなら。

 

 

元のアームと見比べ。初めからそうであったかの様に収まりがいいでしょ?

 

 

 

せっかくいい仕事が出来たし大変気分も良く作業が出来て、感謝の意味合いも込めて革張りのボディを磨き込みました。

 

 

綺麗でしょ

 

 

アクリルの蓋も専用コンパウンドで磨き上げ。

 

 

更に今回はお客様がDL103Rを御所望なので、そちらを指名のブラックキャットのリード線に組んでシェルに装着してアームの高さもそれ用に調整し直しておきます。同じく音出しをして状態確認、先程の仮音出しのMMに比べて更に素敵な音が店内に拡がりました。

アナログカートリッジを大量に無造作に販売している大型家電カメラ量販のオーディオ専門コーナーの売り場の皆さんは当然把握されているでしょうが、針とシェルの組み合わせに於いて必要とされるアームの高さは毎回変わります、詳しすぎる彼らには釈迦に説法でしょうが。

 

 

納品前の針先の顕微鏡確認もいつも通り行います、綺麗なダイヤモンド・・・

 

間違いの無い梱包をして、後はお客様の手元に無事届く事を願うばかりです。

でんき堂スクェアでは、お客様からのオーディオ専門店としての色々なご要望に応えられるように日夜努めております。
こういったアーム植え替えの様な作業も含めて、資本力展示物量スタッフ能力に大変長けた大型家電カメラ量販のオーディオ専門コーナーで対メーカーとの独占的な取引条件を武器に大量仕入れで激安で販売してる商品なのにも関わらず、話が通らなかったりピントがズレた返答でイマイチ納得しかねる事態、例えば「アナログカートリッジは販売はしますが取り付けは出来ません」なんて張り紙が堂々と貼りだされてる大型カメラ量販のオーディオコーナーのみたいな不可思議な状況に遭遇したり陥った際などには、最後で結構ですから私達でんき堂にも一度声を掛けて見て下さい、私達の能力の及ぶ範囲で最善を尽くさせて頂きます。

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