本来再生環境の数、つまり皆さんがオーディオを楽しむ部屋の数だけ音響特性は違うワケですね。様々に組み合わせられる機器類の持つキャラクターやスピーカーの特徴も考えると、信号上での純粋さを求めてのストレート回路が必ずしも音楽再生において純粋かというと、案外疑問なもの。古今東西のアンプには大概トーンコントロールが付いていますが、多くの方がダイレクトスイッチでパスして使わないですよね。

確かにストレート回路を動作させると鮮度が高くなったような気がします、鮮鋭で尖鋭で先鋭な感じ?

それに大概のモデルに装備された低音と高音の二系統では、実際に再生環境に必要な補正をかけ切るのは至難の業でしょう。

私が学生の頃は今と違って、中学高校大学と、大抵の友人知人の家には結構なミニコン、シスコン、単コンと、どれも今や死語に近いステレオ装置があったもので、そのどれもが低音と高音のレベルが全開にされてオマケに12バンドグライコが怪しげに上下にバーを明滅させながら、ボッコボコの低音と下品なキンキラ高音をドンシャンと喚きたてているという、音楽再生的悪夢のような状況がそこかしこで繰り広げられていて、結局のところ誰もまともなバランスの音なんか出せちゃ居なかったのでしょうが、その反動か最近はオーディオやる人も少ないのですが、それ以前にグライコも消えてトーンコントロールも使うこと自体がどこか否定的風潮なのは、私に限らずかつての悪夢がトラウマになってるんじゃないですかね?

しかしですね、本当は必要なんです、アレは。理想の音響特性をもつ試聴室でバランスが取れた状態で調整された各メーカーの機器類は、それ程クリティカルな機材でなくとも、皆各社の設計者及び製作環境での音場空間が適正値で基準ですから、その範囲での理想が新たな嫁ぎ先、つまり皆さんのお宅ですね、そこで必ずしも理想の再生バランスが取れる保障は、機材の持つ根本の部分でのキャラクターそのものが変わってしまう事は無いですが、ハッキリ言ってないです。

だから自分の好みも含めて十分な調整が行えるアンプは本来重要なのです。セレクターとボリュームのみ装備された潔いアンプも沢山ありますが、それでピッタリ音調整えられたとしたら、部屋がよっぽど良いか、各種機材とアクセサリーの組み合わせとセッティングのバランスが奇跡的に決まったか特段腕が良いか。

先の例のように何のオーディオ的工夫をせずに、徒に高音と低音のみ弄った時代もかなり問題ですが、録音やライブも含めて、本来音楽信号が聴きやすい帯域に調整されて私達の耳に届いているのは周知の事実であり(生楽器が一番という方がいますが、その生も演奏環境の数だけホールの数だけ私達の耳に届く音が違うことも事実、またホール自体が大きな音響調整装置ですね)、オーディオを楽しむ自らの試聴環境も一つの演奏空間と捉えて、演奏機材や再生空間に合せた音響調整が出来た方が楽しいと思いますよ。

で、長い長い前置きを経て今回紹介するのは、トライオードの真空管プリアンプ「TRX-1」

見事な配分の周波数帯域に割り振った、積極的に使うことを前提に装備された4バンドのイコライザー搭載は、マキントッシュのアンプを別にすればコレぐらいでしょうね。これが実に使って楽しいのですよ、本当に。

色々なパワーアンプと色々なスピーカでもって色んなジャンルの音楽を様々な再生環境で試してみましたが、基本的なセッティングが出来た条件下でこの4バンドを追い込んでいくと、まず間違いなくストレート状態より音楽が楽しめました。

勿論気に入らなければ、スイッチ一つでバイパス出来る訳ですし、4バンドのイコライザーは付いてて損はないし使って悪い物ではないので、真空管ユーザー以外でも、トライオーナー以外でも、このプリアンプの求め易い価格も含めて、多くの皆さんにトンコン弄りを楽しんでいただきたいものだと思います。

A.I