今日のお仕事はお客様の持ち込んだケーブルを半分に切って頭も新しい物に両端とも取り替えて、アコースティックリバイブのカーボンシースも被せて完全に生まれ変わらせる作業。1.5mのデジタルケーブルが新たに0.75mのデジタルケーブル二本に生まれ変わって音も良くなりましたとさ、目出度し目出度し。

 

 

「アレ、なんだよ、もうお終い?いつもの余計な一言はどうしたんだよ、オマエ、最近忙しいとか言って手を抜いちゃいないかい?」

確かにこれではちょっと短いですね。

こんな声が出てくるのも予想して、ケーブルちょん切る作業しながら頭に思い浮かべてた事を以下に記しておきますね、お約束事はいつもの通り、ムキになって文章中のしょうもない事象を構成する実在の人物や団体を一体どこの大型家電量販等か等と参照などされぬよう笑ってお読みくださいまし。関係者と炎上好きはここで踵をお返しくださいな(笑)
因みに関係者とは、「ノ○マウェイ」とか言う稀代の珍書、怪書を本人の意思に関わらずに強制的に熟読させられた上に、朝礼でその内容を諳んじれないと上長たちに精神的な袋叩きの目に合わせられる現場で未だに働いてる方々及びその著者とその取り巻き、つまりその経営者共を指しますので念の為悪しからず。

宜しいですか?右手を挙げるなり胸に当てるなり、聖書に載せるなり、各自の信ずるものに誓いを立てて(←除く、ノ○マウェイ)以下の文章は全部絵空事ですから誓ってクレーム申しません!と言う方のみどうぞ読み進んで下さいね。

さて、始めます。

私が以前関わって居た大型家電の量販では、それこそゲーム感覚で責任者の首をちょんちょん切ってはすげかえるのがとても流行っていましたね。
元来出店に継ぐ出店で会社の規模を急速に短期間に拡大して来たもんだから、それこそ粗製乱造みたいな勢いで20歳に毛の生えた程度の子たちをちょっと成績出したり上の覚えが目出度い程度で、ロクな社会経験も積ませないままに「出る杭を伸ばす」とか訳わかんない社長直々の標語を振りかざして、終戦期のポツダム将校張りにどんどん人材登用して店長なりリーダーなり部門責任者にしてしまうの。
そんな彼らも中には使い物になるのも出てくるけど、所詮は下手な鉄砲レベルだから、3ヶ月から半年もしないでボロボロと不具合なり不手際が表面化する訳ですよ。そうすると途端に信賞必罰とか“人罪”とか言った、どっかの安っぽいビジネス書で覚えたような言葉を振りかざしてそのミスを全社に公表して晒しものにして、監査に呼びだしては人の弱点や欠点を突く事だけは得意な連中で取り囲んで、色んなあや付けて追い詰めてあっという間に降格させちゃうのね。
なにしろ人だけはやたらと採用しているから、国の就職補助制度をほぼ悪用レベルで活用してドンドン数百人レベルで毎年採用しているから、替わりは幾らでも居るってなもんで、サメの歯みたいに前のが駄目になっても次から次から雨後の筍の如く新店長が誕生する姿はなかなか壮観なものでしたよ。
だからこの会社、やたらと元店長が多いの。現店長の数倍の数の元店長が、かつて自分がそうして来た事を今度は自分より遥かに若いガキみたいな店長の下に組み込まれて雑用に追われたりするんだよね。店頭に戻らずに本部の監視モニター部屋で、かつての仲間の動向を店内に設置した監視カメラで観察してその行動を逐一記録や報告するセクションとか、埋め立て地の物流倉庫に転配とかもとても多いのですよ。
この会社の物流倉庫なんか、元店長か勤続10年以上のベテランばっかりで、経営者の思想がいったいどういうものか理解するにはとても良いサンプルですね、この現場は。
一度用があって倉庫覗きにったら、かつての自分の上司や先輩社員、それこそかつて店頭でイケイケで肩で風切って歩いて多様な連中がゴマンといてビックリした事もありました。

「アレェ?○○店長に△△マネージャーに××リーダーまで!いやぁおなつかしい、その節はどうもぉ~」みたいな

でもそんな彼らに総じて言えるのは、給料とかは年収で店長降格と同時に一気に百数十万以上も下がってしまう、そうね、手取りで20万を遥かに割り込む人も居るね、なんだけど、皆店長だった時の精神的に疲弊しきった顔とは違って妙にサッパリした顔してるの、殆ど皆が。不思議ですね(笑)中には精神に破綻きたして会社来なくなっちゃったのも沢山居たけどね。

そんな中、極一部に完全に自己を一種の催眠状態に追い込んで感覚を麻痺させて人間的常識から幽体離脱に成功し、この歪んだ会社の思想に、自らの思想信条信念といった、社内で生き残る為には邪魔になる、しかし人間本来の姿としては最も大事な物を完全に捨て去り併呑された上で店長やその上の役職に上がって生き残る奴が、生まれた河に遡上するサケ程度には存在するのですよ(今調べたら自然での回帰率は1%無いのだとか・・・)

私がこの家電量販会社の社内に、指揮系統を独立させた別組織としてオーディオ専門店を立ち上げる為に秋葉原の老舗から責任者として呼ばれた時(←実質呼び戻された)に、この会社のなんだか良く分からない仕組みに不慣れな私に、本部との連絡役でマーネージャーをあてがってくれました。
この時のS野クンと言う私より幾つか年若いのにマネージャー職の彼は、入社以来販売のエースとして活躍して即大型店の店長に抜擢され、それもすぐに終えて30歳に手が届くかどうかで、ワンマン社長が専制を敷く如何にも独裁政権らしい抜擢人事で一気にエリアマネージャーにまで駆け上がって、丁度私が逢った頃は正にその権勢の絶頂期だったのでしょうね、バリバリとどんな難題も引き受け良く働き仕事も早く受け答えも明瞭で、自分より年上や先輩にあたるけど部下の店長たちを何十人も束ねて指導し、その彼らに弱みも見せずに常に大きな声を出して胸を張って陣頭指揮をとりと、当時この会社に居た10名程度のマネージャー職の中でもその存在感や評価は筆頭格だったのですね。
明らかにオーバーワークで超過労働で異常なくらいの誠実さを会社に向けるその姿に比して、その言葉と瞳にどうしても彼自身の本来の姿と言うか真実の光が見えない事に、私の様な常に感情を優先して生きる不器用な人間には理解できない部分を感じ、こいつの仕事に対する行動の原点、或いは人間としての本質的な部分は一体どこにあるのかな?と少々疑問に感じた物です。
もっと明確にいうと、こいつは明らかに何かのコンプレックスを抱えて生きてる類の人間なんだろうな、その心の何かを覆い隠す為の常人とは思えない勢いでの仕事ぶりなんだろうな、と直感的に感じた物です。そしてこの会社は常にそんな人間を褒めそやし役職に据え身体が動く限り使い、最後は遣い潰す傾向が昔から大変に強く、若い彼がそれにどこまで気が付いてるかが今後の彼の人生の分岐点になるだろうなと、薄ぼんやりと、腹の底からでは無い彼の笑顔を眺めつつ思った物です。
そんなある日、新しく作った試聴室の準備で深夜まで残って、リボルバー聴きながら鼻歌交じりにアンプ運んだりスピーカー並べたりケーブル繋いだりしていた私の所にこのS野クンが、やはり一日18時間は働いた様子の顔をしながら入って来て

「まだやってるんですかぁ?ごくろうさんでぇす!」

といつもの虚勢交じりの大きな声で私に声を掛けて試聴室入って来て、新装開店準備に忙しいその高価な機材の並ぶ、彼からすれば見た事も勿論触った事も販売した事もないオーディオ製品が鎮座するその部屋を物珍しそうに一巡して眺めて、更に言えばそれを理解するだけのセンスも持ち合わせないままに大型家電量販の役職についてしまった彼が最後に小さな声でポツリと

「Iさん(←私の事)はいいですよね、好きなものに囲まれて音楽聴きながら仕事が出来て・・・」

と言われた瞬間に私は全てが分かった気がしましたね。
やっぱりこいつは自己を押し殺して演じているんだと。

「おい、S野、今は他に誰も居ないからいっといてやるよ、ましてや俺は君とは上下の関係はないからな。俺も君もかなり仕事中毒気味の人間だが一つだけ違う事があるな?俺は純粋に好きで今こうしている、使命感もある。君もそうだろう、でもね、君が部下に発してる言葉は常に君の本心では無いよね?君の立場上、俺みたいにいつも好き勝手言いたい事言ってる訳にはいかんだろうけど、人間たまには素直に自分と向き合う時間が必要な筈だろ?君が指揮する部下達にここに並ぶオーディオを一揃えは確かに難しかろう、でも君の収入で独り身なら、ここにある機材くらい容易に手に入るだろう、君はコレぐらいの機材揃えてでも、少し良い音を聴いて心の均整を保たんといつか潰れるぞ?まだ体力があって身体が動くから分かってないかも知れないが、君の働き方を見てるとそう思う」

と言ったのを良く覚えています。
それに対して彼は、手を付けた食事が自分の想像と全く違った味だった時の様な、深い洞窟の奥を恐々と覗きこんだ時の様なその両方を合わせた様な表情を浮かべ後じさりしながら

「いやだなぁ、Iさん、僕にはオーディオなんか分かんないし、そんな聴いてる時間なんかないですからぁ」

と言って足早に薄暗い深夜の店頭へ消えて行きました。

その後、多くの店長が彼の手により粛清され抜擢され、同時に多くの他のマネージャー達もその雇い主に粛清されて入れ替わる中、彼だけはそこから6年間その地位に留まり、最後に私がこの会社を離れる前に彼を見掛けたのは、本部の会議に出向いてた彼が以前より年齢以上に大分生気を失った表情と不健康に肥えた姿でノートパソコンを背中を丸めて弄っている姿であり、それから大した時を経ずに風の便りでS野クンが心臓発作で死んだと聞かされました。
まだ三十代中後半だった筈です。彼を良く知る同僚にして友人にしてやはり元マネージャーにして元店長でもある今はペーペーの立場の人が

「S野は社長が殺したようなもんだね」

と言っていたと、更にその友人から聞きました。

おしまい。

 

人は気安く切っちゃいけませんが、ケーブル切って作り直しならお手の物→0466-20-5223