何度かここにも書きましたが、DENON DL103、とっても良い針です。今となってはその根拠を疑いたくなる様な価格設定です。よく他社のアナログカートリッジを高いと非難気味に言われる方がおりますが、実際にそれに掛かる手間を多少は理解してる積りの私としては、彼らが高いのではなくDENONが安すぎるのだと思います。ただ実際には経済的懐事情その他色々あって、20万30万する値付けの様な針を価値としては真っ当と理解こそすれ、大概はポンスカ気軽に買えないのも事実です。だから尚更DL103は優れてます。仮にこの針の生産をDENONが諦めたとして、他社に同じ物一から作って貰えばその販売価格は間違いなく10~15万円を越します。その際製作用の治具や部材、それからココが一番大事ですが、製作技術者を譲り受けられなかった場合は、値段の問題では無く未来永劫生産不能になります、それはこの目で確認して来たので間違いありません。白河工場に並ぶそれらのアナログカートリッジ生産用設備は2度と製作はして貰えなさそうな機材達です。その設備が揃っていてさえ、この針を作れる人材は現在一人だけ。この方がいなくなれば完全にお終いです。どっかのアホみたいに、厳しい修行積んだ寿司の職人不用論的発言に共感する様な人間には理解不能でしょうが、この針だって数カ月の研修程度で製品レベルを安定して必要な数巻ける様になれる程、世の中甘くは無いと僕は信じています。

 

 

さて、お仕事です。その大変いい針だなと皆さんも私も素直に感じているDL103の更にR仕様ですね、コレを剥けと言うお客様からの指令が今日のお仕事です。そんなもん剥いてどうすんのさ?剥いたら凄いんですよ旦那、へっへ。
無論、DENONの名誉の為に書き添えれば、剥かなくても十分凄いですよ、勿論。改造系ショップが陥りがちな、メーカー製の標準状態のアラを探して鬼の首取った勢いでそこを貶め、その弱点を補って改善したオレ様チューンのは格別で素晴らしいみたいなのがこの業界も本当に多くて辟易気味なのですが、私が皆さんに伝えたいのはそこじゃないです。ハッキリ言ってメーカー標準状態で十分です。それを十分承知した上での、敢えて他者と違う何かへの欲求に過ぎません、この手の遊びは。決して改造系嫌いじゃないです、僕自身は。コテンパに弄ったMGとかサーキット持ち込むの大好きです。でも必ずリスクをしょいます。限界求めてあちこち削ったり出力増したり足回り固めたりした車は簡単に壊れます。オーディオも同じで、性能求めてどこか弄れば必ずどこかに負担が掛かったり弱い面が出て来ます。世の中すべからく相対的な物なのです。そのリスクも含めて馬鹿だね俺はと自分を笑いながら楽しめる方には改造もお勧めできます。つまりDL103を剥いて特別誂えのアルミ削り出しの専用ベースに填めて聴く音は確かに印象的なモノです。部屋中を解放された音場が広がります。さっき取材でいらしていた音楽の友社の編集さんもライターさんも驚いたり感心したりして下さいました。次回プライベートで購入に来て下さるとまで仰って下さいました(本気で待ってますよ~)。でも裸の針です、見えるか見えないかのような蚕の糸みたいな細い線材がナマで剥きだしです。持つとこ間違えば一発で断線します。カバーと言うガードが無い分カンチレバーも長く伸びた状態になるので横からの衝撃にもどうしても耐性弱くなります。先日もお得意様でお一人この不幸な事故が発生しましたが、当人はそこで怯んだり嫌になる訳でもなく、再度この仕様を注文下さいました。そう、このネイキッド仕様の音を聴いた方々のコメントを総合すると

「あのボディ剥いたDL103の音は一度聴いたら忘れられない、でも怖いねぇ~」

と言う事に集約されます。

 

 

正直これを作る方の私はもっと怖いです。今までミスはしてないですが、この作業入る前は出来るだけ調子の良い自分に心静かに精神状態を持ち込み、他の力仕事なので手先が鈍って居ない日を選んで作業しています。製作数も一日三個程度までと決めています、そうしないと神経もたないし他の仕事も出来ないくらい疲れちゃいます。でもそうまでして無事組み上がった、このDL103ネイキッドを試聴した時に得られる安堵感と達成感と満足感、そしてある種の優越感は、コレは確かに一度覚えたらやめられないかもね。

 

 

 

ご注意*DL103ネイキッド仕様は、十分な説明を聞いてリスクを理解出来る方のみへの販売ですので、基本的には店頭での販売と限らさせて頂いておりますが、今回ご依頼下さった九州の方の様に、神奈川県藤沢市の店頭まで来る訳にはいかない方も多数おられます。そういった方々で、今までに幾つかこの仕様を紹介下さったライターさん方々の記事やブログやコメントを参考に、リスクは承知だがどうしてもお前の店には行けないから通販で売ってくれと言う方には、一度電話でお話をさせて下さいませ。また、ネイキッド化は足掛け1964年の発表以来53年、今まで発表されたDL103シリーズ全て10種類以上のモデルに施せますが、唯一、DL103Mのみ出来ませんので御理解下さいませ。何故ならこの103Mと言う針は名前以外はピン配列もボディ構造もDL103シリーズとは何ら関係性の無い不思議なモデルだからです。実の所コレのみ301系列のボディ違いです、ハッキリ言ってしまうと。まぁあまり流通してないから出会う確率は低いですがね。
そんなこなで決して数は売れまいと思って始めたこの作業ですが、今日の注文を機に専用ベースの残り在庫を確認したら思いの外に減っている、弱ったなぁ。この精密加工専門業者さんにお願いして削り出して貰うこの部品、発注単位と価格の関係で決してお店にとって楽な在庫金額では無いのだけど、これだけ売れて来たとなると、もう一度削り出して貰わないと、これからのお客様の期待を裏切りかねない事になりますよねぇ・・・

 

とにかく俺の103を剥いてくれぃ!→0466-20-5223