グレースのF-8L、ベテランにはお馴染みの、今から何十年も昔のオーディオ隆盛期から全盛期の一時代を築いた国産MMの雄ですね。当時の資料を紐解くと、アナログカートリッジの構造はMCかMMどちらがベストかみたいな大論争があったそうで、何を根拠にかまでは知りませんが、グレースの一方的な勝利宣言なんかあったりして、私が知らない時代、当時のオーディオは本当に面白そうですね。因みにグレースと言う会社は屈託ないと言うか未練がないと言うか、1980年代初頭のCDの登場と同時に、無駄な抵抗や転進はしなかったというか、ブランド元の品川無線は時代の変化にいち早く気が付いて、この先アナログカートリッジビジネスは終息すると他社より早く感じた様子で、もうや~めたって感じであっさりオーディオビジネスから手を引いてしまいました。つまり潰れたとかじゃないんですよね。
さて、今日のお仕事はその癖の無いフラットな再生音が魅力のグレースF-8L、後期の´10(ダッシュテン)と呼ばれる針先が奢られた、しかもどういった経緯かは存じませぬが、奇跡の未使用新品!に凝り性のお客様が別口で入手された純正のシェルを装着して銀線のリード線を奢る作業です。RedRoseMusicのこのリード線、あまり流通無いですが良い線ですよ、でんき堂スクェアは比較的この線を安定して供給致しますので、興味おありの方はお早めにどうぞ。何故なら、製作側の手持ち部材品限りなのです、この線。何でもマークレビンソン氏の個人所有物の線材だったのだとか・・・。その線をgraceロゴも眩い当時の専用シェルに組み上げていきます。

 

 

そこで注意なのが、このシェル、ピン根元の色分けが通常のシェルとは正反対になって居ます。当時のグレースのアームはどういった理由か、内部配線が独自で、赤白緑青の配線順序が一般的他社製品とはが逆なのです。よってそのアームの為にこさえたシェルの色番手指示も当然逆さまで、皆が皆リードピンの配色順等覚えている訳ないですから、この指定順に習ってリード線の色を組んでいくと、グレース以外のアームにそのシェル組む限りは必ずステレオ再生音は左右逆になります。勿論今回はそんな失敗もなく、無事組み上げて再生確認したその音は、成る程当時彼らが一方的に勝利宣言してみたくなる気持ちも分からんくもないよねと思える滑らかで必要な情報はキチンと提示しながらも抑制のきいた素敵な音でした。

 

 

実際グレースのシェルにそのまま組んだ針を他社のアームで何十年に渡って聴き続けた為に、聴いて来た音楽が全て一般の方と逆に身体に擦り込まれて記憶されてしまい、今更どうにもならなくなってしまっている人を何人か知って居ます。中にはCD化されたらステレオ左右逆になってんだよね、CDやっぱ駄目だよねみたいなこと真顔で言った方も居ました。とにかくそういった不幸な事故を起こさない為にも、アナログカートリッジの取り扱いは当然その程度の知識はアナログ製品扱っている以上は有している筈のオーディオ専門店にお任せになって下さい。残念ながら不幸にしてそういった事どころかグレースさえも知らずにアナログ製品だけは激安ポイントで山と積んで音も出せず、失礼、だ「さ」ずに販売されている立派な販売コーナーを有した大型家電カメラ量販しか見当たらなかった時は、グレースの事で、いや違った、この売り場に置かれているアナログ製品の事で質問ですがって尋ねてみて、それが何であるかピンと来なかった様子だったり、質問をきき返して来たらサヨウナラして下さい、それ以上はお客様にとっても、オーディオたいして好きでもないのに仕事でそこに立っている店員にとっても時間の無駄になるので。

 

 

お客様はこのグレースを未使用新品の触れ込みでオークションで入手されたとの事、顕微鏡で針先を見る限り、その言葉に出品者側の嘘偽りはなかろうねと思える美しい状態でした。何故そんな事が分かるのかと簡単に言うと、ダイヤは綺麗に磨けても、カンチレバー全体に纏わり付く使用に伴う汚れやアルミ材の腐食までは、スタイラスクリーナーでは落としきれないからです。私自身がグレースの針が好きで良く使うのですが、手元にあるのはどうしたって全て中古です。こんなに綺麗でフレッシュな音を出すグレースは初めての経験でした。何しろ40年前ですもんね、この針現役だったの。つまり、お客様は良い取引を今回そのオークションでされたと言う訳です。

 

超凄い立派で滅茶苦茶巨大な資本と売上を誇って優秀な人材も山盛り配属された超大型カメラ/家電量販のスゲー立派な売り場で、何故だかオーディオコーナーだけは全然見掛けない店員探し回って漸く捕まえてアナログカートリッジの装着を頼んだのに話が伝わらなかったら→0466-20-5223