ここでは、普段からオーディオ的に凝った方々の好みそうな物ばかり紹介して来て居ますが、オーディオは本来マニアの占有物でも無し、1970年代にはごく普通の家庭にシステムステレオ、パイオニアやビクター、トリオ等でお馴染みの銀色に輝く機材が同じメーカーの誂えた立派な木製の家具調ラックに収まっていて、再下段にはLPが数十枚並べられて引き出しに小物が入るアレですね、当時の価格でも10万~20万はくだらない物が、普通の家庭にTVが20インチは有れば立派だった時代の各家庭に当たり前の様に並んでいました。
私等は幼少期は別段裕福な家庭でもマニアでもない普通のサラリーマンの親を持ち、名古屋郊外の公団2DKで、勿論車等所有してる訳ないしエアコン付いてる家等皆無の環境で、風呂にシャワーも付いていない住まいでしたが、レコードプレーヤーを抱いたビクターのレシーバセットが置いてありました。後で気になって調べたら1972年型で、当時で五万円超す程度のセット、丁度大卒初任給が5万円と言われた時代の一般レベル、或いはそれより低い程度の生活環境だった私の家にも、この程度のステレオは有った物だし、63棟も並んだマンモス団地の幼稚園の色んな同級生の家に遊びに行けば、どの家にもやはり似た様なステレオ装置は大概は並んでいた事を良く覚えています。因みにこの団地は五階建ての豆腐型公団で一棟当たり40家族程度の部屋数でしたが、大きな芝生の前庭を持つ広々とした環境に駐車場は各棟二台ずつだけと言う、今では想像もつかない状況でした。友達で自家用車持ってる家、ほんの少しだったよね、あの頃。
現代の感覚に直せば40数万円程度のステレオが各家庭にマニアとか関係なく置いてあるのと同じ金銭感覚でしょう。私の家でさえ今で言う20万円程度のシステムだったと言い替えられます。木の箱の良く響くほのぼのした音の記憶があります。逆に言えば今の立派な戸建てやすっかり広くなった公団やマンションの間取りで、立派な車が一台どころか複数台、全室エアコン完備で50インチのテレビは当たり前の昨今に、それらの投資額や存在に比して存在も内容も明らかにしょぼい音楽環境の現代がおかしいのです。
まぁ皆様が生活の重点に何を置こうと一介のオーディオ店が何か喚くべく問題ではないでしょうが、ただ一つハッキリ言えるのは、当時の各家庭の方が今より遥かに音環境は優れています。ハイレゾ語ろうがデジタル云々言おうが、2~3万円程度のプラスティックの練り物に基盤が張り付いた様な物から得られる音は、逆立ちしても70年代のシスコンには敵いません。確かに丸ビル一棟分の容積のコンピューターを必要とした性能が、掌サイズのモバイルに収まってしまう今の時代に、オーデイオも小型高性能化したと思いたい気持ちも少しは分からんでもないですが。因みに最新のテレビはそりゃ画質も素晴らしいですが、こと音に至っては、1970~80年代のテレビにさえ到底及ばないレベルまで衰退しています。薄いフィルムがペラペラ仕込まれてるだけだもんね、しかも下向きとかで。重たい木箱に独立アンプと紙製コーン仕込んでた時代のTVの音の方がそりゃ良いに決まってますが、視聴者置き去りの4K8Kと言った解像度至上主義志向の彼らや販売店からそこに声が上がってこないのは、最早不思議と言うよりは毎度お馴染みの、売れりゃ後はどうでもいい如何にも日本の家電業界らしい話ですね。
閑話休題、今日のお仕事は、余程物持ちが良い方だったのでしょうが、1976年型のパイオニアのシスコンの再整備です。要するに持主たる御主人は別段マニアでは無いけど、若りし頃コレをどこかしらの電気店でお買い求めになったのだそうです、勿論大型家電量販等と言う軽薄な販売形体の店など存在しない時代です。街の電気屋さんかデパートの電気製品売り場の仕事でしょうね、きっと。当時の価格でも30万近いセットです。スピーカーも大きくて縦型の木製キャビネットも立派。でもお客さんは配線とか全然分からない、そりゃ40年前に電気屋さんが据え付けてくれてそのまんまですもんね。興味持って弄らない限りは壊れるまでその時の姿で存在するのが普通の家庭のオーディオです。今回そのお客様のご親族、兄上ですね、歳を重ねられて自分より一足先に旅立たれ、その形見として譲り受けたスピーカーを繋いで上げたい、でもどうすればいいか良く分からない、そういう依頼です。
御主人は全くオーディオ的知識は有さないので兄上のそれが何であるかはよく分からないが、とにかくそのスピーカーは大きくて外国製で兄はマニアであったと。なんだか発音し難い英語だと。それで写真を見せて貰ったら何とタンノイだ。TANNOY、オーディオ好きな人は当たり前でも、興味なきゃこの綴りは無理ですよね、そりゃ。コルク貼ってあったイイ時代のスターリングで、スタンド分割だった時期のサイドの音響ダクトを触って低域の量感調整が出来た、おおらかな聴き応えを有した最後のタンノイです。

「お客様、これはね、確かに時間は経っているけど良い物ですよ、お兄様の為にもキチンと接続して音を出して差し上げましょう、幸いにしてアンプは40年経って今尚健在、流石に音質的にはコンデンサが抜けて来た感じの音だし、あちこちガリも出て来ているけど、今回はケーブルだけ新調して、いよいよの時がきたらアンプを考えましょう」

そういう話で纏めて端末を処理したケーブルを持参してお客様宅訪問です。閑静な丘の上の住宅街で、成る程1970年代に売り出されたであろう事を偲ばせる戸建てがまだ幾つか残っていました。

 

右がビンテージ対応の小径用プラグ、左がバナナプラグ

 

パイオニアと言うブランドや会社は、往時の勢いは今は見る影もなくなり、慈愛に満ちた創業者の人間性なぞ知ろう筈も無い姿勢で臨む営業共の、オーデイオや取引店に対する熱意もポリシーもマナーも全く持ち合わせないか感じさせない事のみに長けた、もうこれ以上罵る言葉さえ浮かばない現代のパイオニアの彼らからすれば、眩い位の当時はとても輝いていたパイオニアの懐かしくも立派な面影を抱えて銀色に輝くシスコンを、あちこち整備して接続取りなおして新たな環境に移った英国タンノイに接続です。
立派とは言えこの時代のシステムのスピーカーターミナルは本当にささやかな物で、バネ抑え式の小さな穴が開いたパッチン式の例のアレですね、なので、そう言った端子に撚り線を綺麗に纏めて細径に確実に挿しこめるTARALABのSA-PINと言う端子でアンプ側を仕上げ、スピーカー側は高価な物は使いませんがバナナプラグでしっかり組み上げておきます。一通り接続終わって掃除も少しして、長い事回って居なかったターンテーブルもベルトを変えたらちゃんと回って音も出て、こちらのご主人も喜ばれたし、その兄上もきっとお喜びであろうと、少しイイ気分で帰って来た次第です。
要するにでんき堂スクエアは、マニアでなくても音出しに困っている方への手助けを致しますと、そう言うお話です。因みに今回頂戴した料金は、目的地までの往復電車賃プラス、スピーカーケーブル及びプラグ、ベルト代金実費と1時間半程度の出張作業費としての5,000円でした。金銭の価値感は皆様それぞれおありでしょうから、妥当に感じられた方は是非、オーディオの件で何か必要御座いましたらお問い合わせ下さいませ。若い頃は自分で担いで階段上がったけど、もう歳喰ってこんな重いアンプ下ろせない、でももう一度直して使いたいから助けてくれ、息子もアテにならんのじゃと言った依頼も良くお受け致しますので、諦めてしまう前に一度検討なさってみて下さい。

最後に、現代のパイオニアの事をぼろ糞に書かせて頂きましたが、取引店に対してのらりくらりと3年間音沙汰ない彼らの営業姿勢に、慈愛の心で接せられるほど私は人間が出来て居ません。その前の担当者等は

「我々パイオニアはオーディオなんか重視していないから、小規模なオーディオ販売店等相手にする気が無い」

とまで、湘南モールフィルのハンバーガー屋でコーヒー飲みながら言い切られた事もあったしね(笑)
こんな奴が跋扈するパイオニアなら、オーディオを愛して仕事している身分としては、パイオニアなんか無くなってしまえばいいと心の底から思います。しかし今まで私達を楽しませてくれたパイオニア製品は大好きです、個人的には沢山所有して仕事では山盛り販売して来ました。そんな私がパイオニア消えちまえなんて言うと、創業者にして敬虔なクリスチャンであった松本氏が聞いたらさぞ悲しむでしょうが。

 

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